健康診断の義務(実施・負担・把握・報告・保管)について

人事・総務のご担当者様が把握しておきたい基礎知識として、健康診断の実施義務や、企業が費用を負担すべき範囲、健診データを誰が把握するか、健診結果の報告義務、データを保管する義務など、5つの視点でまとめています。ぜひご参考ください。

目次

健康診断を従業員に受けさせるのは義務?

健康診断の実施義務イメージ画像、男性の医師が指南している様子

心身ともに健康な状態を維持しているときに、従業員は最高のパフォーマンスを発揮し、仕事に向かうことができます。人材は会社の成長に欠かせない財産です。 その大切な人材のフィジカルな面を客観的に判断するために健康診断が法的に位置付けられています。

労働安全衛生法第66条および労働安全衛生規則第44条に基づき、事業者は常時使用する労働者に対して1年以内ごとに1回健康診断を行わなければなりません。

実施しない場合は罰金や懲役はある?

事業者は、従業員に健康診断の実施が義務づけられており、罰則が付いてきます。
従業員に健康診断を受診させなかった場合には、該当する事業者に50万円以下の罰金が科されます。

また、健康診断結果が何らかの理由で漏洩してしまった場合は、罰金だけではなく6ヶ月以下の懲役を科される可能性があり、また企業のイメージダウンにもつながるため、徹底した管理体制が求められます。

健康診断実施義務の対象となる従業員の範囲は?

正社員・パート・アルバイトに対する実施義務は?

対象となるのは、正社員はもちろん、契約期間が1年以上予定されている者、および更新により一年以上働くことが予定されている者です。一年以上働くことが予定されている者は、週所定労働時間の4分の3以上働く契約社員やパート従業員も該当します。

この他、週所定労働時間が正社員の2分の1以上のアルバイトやパート従業員であっても、健康診断を受けさせる努力義務があるため、実施するのが望ましいとされています。雇用形態だけではなく、平均労働時間を確認し、健康診断を受けさせる従業員をピックアップしておきましょう。

派遣社員、従業員の家族にも実施義務はある?

労働者派遣事業法に基づく派遣社員については、派遣社員が直接労働契約を結んでいる派遣元の企業が実施するため、対象外となります。そのため、従業員の条件をしっかり把握しておくことが大切です。

従業員の家族は、健康診断実施義務の対象外となります。
(※一部の大企業では配偶者の健康診断費用負担をしているところもあるようですが、一般的ではないようです。)

従業員の家族は、対象年齢に条件がありますが、加入の健康保険組合で特定健康診査(特定健診)を受けられます。

役員にも適用される?

適用される役員とそうでない役員がいます。 取締役兼任工場長といった労働者性のある役員は、健康診断の実施対象に含まれます。

役員は、労働者性があるかどうかで実施義務を判断しますが、役員の健康状態は、経営にも影響する可能性があるため、法律上の義務がなくても、実施することが望ましいです。

実施する健康診断の種類

健康診断の種類、イメージ画像

事業者が実施する健康診断の種類は、一般健康診断特殊健康診断行政指導による健康診断の3種類です。

一般健康診断

一般健康診断の種類は、定期健康診断雇入時健康診断特定業務従事者健康診断海外派遣労働者の健康診断給食従事者の検便があります。

一般健康診断実施するタイミング
定期健康診断常時使用する労働者に対して、1年以内ごとに1回、定期的に実施します。
雇入時健康診断常時使用する労働者を雇入れる直前または直後に実施します。
特定業務従事者健康診断深夜業等の一定の有害な業務に常時従事する労働者に対して、特別な項目について6ヶ月以内ごとに1 回、定期的に実施します。
※深夜業に常時従事する労働者とは、午後10時から午前5時の間に業務に従事し、 1週に1 回以上または 1ヶ月に4 回以上行う者が対象です。
海外派遣労働者の健康診断6ヶ月以上海外に派遣される労働者に対して、派遣前および帰国後に実施します。
給食従事者の検便給食業務に従事する者の雇入れ時、当該業務への配置転換する際

特殊健康診断

特殊健康診断の種類は、高気圧業務放射線業務特定化学物質業務石綿業務鉛業務四アルキル鉛業務有機溶剤業務の7種類です。一定の特定化学物質業務や石綿業務については、その業務に従事しなくなった場合であっても実施する必要があります。

特殊健康診断の結果および労働者の状況を配慮して、配置転換や労働時間の短縮、作業環境測定の実施、職場環境の改善など適切な措置を講じなければなりません。その記録は、業務の種類によって異なりますが、5年間もしくは30年間保存する必要があります。

行政指導による健康診断

行政指導による健康診断の種類は、VDT作業健康診断腰痛健康診断騒音健康診断などがあります。

必要な健康診断の検査項目

健診診断の検査項目のイメージ画像

定期健康診断の検査項目(安衛法第66条第1項、安衛則第43・第44条)

【調査項目】既往歴および業務歴
【検査項目】以下

  1. 自覚症状および他覚症状の有無の検査
  2. 身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
  3. 胸部エックス線検査、喀痰検査
  4. 血圧の測定
  5. 貧血検査(赤血球数、血色素量)
  6. 肝機能検査(AST、ALT、γ-GT)
  7. 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
  8. 血糖検査(空腹時血糖またはHbA1c)
  9. 尿検査(糖・蛋白の有無)
  10. 心電図検査

※年齢によって、省略される項目があります。例:40歳未満(35歳を除き)5~8、10は、医師の判断により省略されます。

雇入時健康診断の検査項目

【調査項目】既往歴および業務歴
【検査項目】以下

  1. 自覚症状および他覚症状の有無の検査
  2. 身長、体重、腹囲、視力および聴力の検査
  3. 胸部エックス線検査
  4. 血圧の測定
  5. 貧血検査(赤血球数、血色素量)
  6. 肝機能検査(AST、ALT、γ-GT)
  7. 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
  8. 血糖検査(空腹時血糖またはHbA1c)
  9. 尿検査(糖・蛋白の有無)
  10. 心電図検査

特定業務従事者健康診断の検査項目

検査項目は、定期健康診断と同じです。ただし、胸部エックス線検査は、1年以内ごとに1回定期で行えばよいとされています。

深夜業などの特定業務に常時従事する労働者は、当該業務への配置替えの際および6ヶ月以内ごとに1回、定期健康診断と同じ頂目の健康診断を実施する必要があります。

有機溶剤・特定化学物質・鉛・電離放射線・粉じん作業などに従事する労働者については、省令等にて特殊健康診断の実施が義務づけられています。

医師の判断により省略できる項目

  • 聴力検査
  • 貧血検査
  • 肝機能検査
  • 脂質代謝検査
  • 糖代謝検査
  • 心電図検査

※年齢によって、省略される項目があります。例:40歳未満(35歳を除き)5~8、10は、医師の判断により省略されます。

特定業務とは?(労働安全衛生規則第 13 条)

  • 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
  • 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
  • ラジウム放射線、エックス線その他有害放射線にさらされる業務
  • 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場 所における業務
  • 異常気圧下における業務 ヘ さく岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振 動を与える業務
  • 重量物の取扱い等重激な業務
  • ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
  • 坑内における業務
  • 深夜業を含む業務
  • 水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
  • 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
  • 病原体によって汚染のおそれが著しい業務
  • その他厚生労働大臣が定める業務

海外派遣労働者の健康診断検査項目

定期健康診断の検査項目に加えて、医師が必要であると認める項目について実施します。

【派遣前】

  • 腹部超音波検査
  • 血液中の尿酸量の検査
  • B型肝炎ウイルス抗体検査
  • ABO式およびRh式血液検査

【帰国後】

  • 腹部超音波検査
  • 血液中の尿酸量の検査
  • B型肝炎ウイルス抗体検査
  • 糞便塗抹検査

※派遣前の健康診断は、定期健康診断を6ヶ月以内に受診していれば、当該健康診断の項目を省略することができます。

給食従事者の検便

給食業務に従事する者の雇入れ時、当該業務への配置転換する際に検便を実施します。

特殊健康診断の検査項目一例

特殊健康診断は、その業務により受けるべき検査項目が異なります。一例として、有機溶剤健康診断の項目を紹介します。検査項目は、従業員が関係する有機溶剤の種類により項目が定められます。

  1. 業務の経歴調査
  2. 有機溶剤による健康障害、既往歴の調査、自覚症状・他覚症状の既往の調査、有機溶剤による異常所見の有無の調査
  3. 自覚症状・他覚症状の有無の検査
  4. 尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査
  5. 尿中たんぱくの有無の検査
  6. 肝機能検査(AST、ALT、γ-GT)
  7. 貧血検査(血色素、赤血球数)
  8. 眼底検査

関係する有機溶剤の種類によって、検査項目が異なります。対象の従業員がいる場合、あらかじめ詳細を把握しておく必要があります。

行政指導による健康診断の検査項目一例

VDT作業健康診断…職場でコンピューターを使用するVDT作業者に推奨されている健診です。作業の種類や時間により、作業区分が分けられ、健診項目が異なります。配置前健康診断と一年以内ごとに一回の定期健康診断があります。

一例:定期健康診断の項目
作業区分A(作業時間 一日あたり4時間以上)の場合

  1. 業務歴の調査
  2. 既往歴の調査
  3. 自覚症状の有無の調査…眼疲労を主とする症状、上肢、頸肩腕部及び腰背部を主とする症状、ストレスに関する症状
  4. 眼科学的検査…視力検査、5m視力の検査、近見視力の検査など
  5. 筋骨格系に関する検査…上肢の運動機能、圧痛点などの検査
  6. その他 医師が必要と認める検査

費用は企業や組織が負担する?

健康診断の費用負担のイメージ画像

労働安全衛生法等で事業者に健康診断の実施が義務付けられているため、基本的に事業者が負担するものとされています。

ただし、希望による健康診断のオプション検査や人間ドックの場合は、定期健康診断(法定項目)にかかる費用のみ事業者が負担し、差額分は、健保の補助か従業員個人支払いになります。

派遣社員は、派遣元の企業が実施し、費用は派遣元が負担しますが、特定業務健診や特殊健診については、業務を行う職場に実施義務があるので、派遣先の義務・負担になります。

健康診断の費用は計上できる?

健康診断の費用を経費にするためには条件があります。

  • 役員や特定の従業員のみではなく、全員が対象であること。
  • 一般的に実施されている人間ドックや健康診断の範囲内の費用であること。

健康診断結果を把握する義務

健診データの閲覧権限、データの取り扱いイメージ画像

従業員の健康診断結果を見ても良いのは誰?

事業者は従業員の健康状態を把握しておく必要があります。産業医、保健師、衛生管理者などの産業保健スタッフは、労働者の健康を守り管理する役割があります。また、従業員の上司には、業務上必要な情報を開示される場合があります。

労働安全衛生法第66条には、健康診断の事後措置による就業上の配慮や保健指導についての規定がありますが、厚生労働省の手引きによると法律上は本人の同意は不要(法定項目で安全配慮義務の目的の場合)とされています。

【参考】

「健康情報の第三者提供」に該当しない例、として「同一事業所内で情報を共有する場合」と記載あり

(「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」(厚生労働省・2019年3月))

https://www.mhlw.go.jp/content/000497426.pdf


法定項目に関して、安全配慮義務を目的として同一事業所内での共有を行うケースにおいては本人の同意は必要ありませんが、健康診断結果は「要配慮個人情報」に該当するため、適正な取り扱いが必要です。

健康診断結果は「要配慮個人情報」

平成27年に個人情報保護法が改正され、「要配慮個人情報」が定義されました。健康診断結果は、要配慮個人情報に該当します。したがって、第三者へ提供される場合には、原則、本人の同意を得る必要があります。

要配慮個人情報とは

「本人の人種、信条、社会 的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報」

健康診断結果を把握した後の事後措置は?

健康診断は受けた後が肝心です。従業員の健康診断を実施して終わりにはせず、適切な事後措置に取り組みましょう。健診結果から見えるリスクへの対応の仕方など、「健康診断の事後措置」については下記もご覧ください。

健康診断結果の報告義務

健康診断結果の報告イメージ写真(医療関係者が記入している場面)

常時50人以上の労働者を使用する事業者は、「定期健康診断結果」「特定業務従事者の健康診断結果」を所轄労働基準監督署長に報告する必要があります。

「雇入時の健康診断結果」「海外派遣労働者の健康診断結果」は、報告の必要はありません。
各種健康診断結果報告書は、厚生労働省HPよりダウンロードするか、各労働基準監督署で入手できます。

健康診断結果の保管義務

健診データの保管義務イメージ画像、書庫にあるファイルが並んでいる写真

保管期間は、健康診断の種類によって異なります。

一般健康診断健康診断個人票を作成し、5年間保存
特殊健康診断
  • 有機溶剤健康診断・鉛健康診断・高気圧作業健康診断…健康診断個人票を5年間保存
  • 特定化学物質健康診断…健康診断個人票を5年間保存(一定の物質は30年間)
  • じん肺健康診断…健康診断個人票およびエックス線フィルムと共に7年間保存
  • 電離放射線健康診断…健康診断個人票を30年間保存
  • 石綿健康診断…健康診断個人票を40年間保存
行政指導による健康診断VDT作業健康診断、腰痛健康診断、騒音健康診断などの結果報告の保管期間は明記されていません。

まとめ

事業主、健康を担う産業医や保健師、衛生管理者、人事や総務は、従事員の健康を守る義務があり、健康状態を把握し心身ともに良いコンディションで適切な環境で働けるよう必要なサポートをする役割が託されています。

法的に定められている健康診断を単に業務の一貫として事務的な管理にとどめるだけではなく、その結果を生かし、一人一人の健康レベルを一層高めることが重要です。

従業員の健康診断結果で見るべきポイントは?

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