てんかんを持つ従業員への就労支援

てんかんについて

 てんかんとは、脳の神経細胞の電気活動が一時的に乱れることによって、てんかん発作が繰り返して起こる脳の慢性的な疾患です。誰でもいつでも発生する可能性があり(図1)、人口の100人に1人がいるといわれています。日本国内だけで約100万人の患者がおり、ごくありふれた病気といえます。

図1)健康保険組合加入者集団における年齢階級別てんかん発症率(人口10万人年対)

Akemi Kurisu, Aya Sugiyama, Tomoyuki Akita, Ichiro Takumi, Hitoshi Yamamoto, Koji Iida, Junko Tanaka Incidence and Prevalence of Epilepsy in Japan: A Retrospective Analysis of Insurance Claims Data of 9,864,278 Insured Persons,Journal of Epidemiology,2024 Feb 5;34(2):70-75. doi: 10.2188/jea.JE20220316.

てんかんの症状

 同じてんかんでも、大きな発作から小さな発作までさまざまな症状があり、ひとりひとり違います。数秒ほどぼーっと意識がなくなる小さな発作の場合、本人は発作があったことに気づかず、そのことを覚えてもおりませんので、なかなか診断・治療に結びつかないのが現状です。この中には運転中に自覚がないまま発作を起こし、交通事故につながっているケースも少なくないと考えられています。周囲が発作のことに気づいた場合、放置をせず、本人に起こったエピソードのことを伝える、専門医療機関への受診を促すといったことも重要でしょう。

【てんかんの具体的な症状】

  • 口をモグモグする
  • 手をモジモジする
  • おなかがムカムカする
  • ボーっと意識がなくなる
  • 実際にはない音や色を感じる

てんかんの治療

 てんかんの治療は、抗てんかん薬による治療が基本で、約2/3で発作が消失するといわれています(図3)。残り1/3でも外科治療等により、その多くが症状改善する可能性があります。なお、薬の飲み忘れ、不規則な生活リズム(特に寝不足)、お酒の飲みすぎなどは発作を増やす要因になるため、これらの生活習慣等にも気をつけていくことも大事です。

図3)てんかんの治療予後

UCB Cares. てんかん治療の概要

てんかんと就労

てんかん持ちの方が就くことが禁止されている職業はパイロット・船員くらいで、発作がコントロールできていれば、制約なく様々な職業に就くことが可能です。運転に支障をきたすおそれのある発作が2年間なければ、運転免許を取得することも可能です。なお、日本てんかん学会では、「てんかん発作が投薬なしで過去5年以上起こらず、今後も再発のおそれが無い場合を除き、通常は大型免許・第2種免許の適性はない」としており、トラックやタクシーの運転手に業務に就く際は少し注意が必要になります。

てんかんを持つ従業員への配慮

基本的に発作がコントロールできていれば、職場で何か対応をとる必要はありません。発作がコントロールできていない場合は、職場で何らかの配慮が必要になると思われますが、心配のあまり、ついつい過剰なサポートや配慮をしがちです。職場で支援を行う際、まずは本人から以下のことが聴取できるとよいでしょう。なお、全身のけいれんなど大きな発作でも、発作時は様子を見守るだけでよく、基本的に救急車を呼ぶ必要はありません。

●症状の特徴
●発作時にお願いしたいサポートや不要なサポート
●発作の頻度
●仕事上の配慮(避けたい業務など) 
 

てんかんを持つ従業員の状況をよく理解し、過度な制限や過小な配慮とならないように留意しましょう。

参考文献

・東和薬品(中里信和監修). てんかんと就労について
・就労継続ナビ. てんかん持ちに就けない職業はある?てんかんでもできる仕事とは

この記事を書いた人

今井 鉄平 氏
OHサポート株式会社 代表 産業医

2022年、日本産業衛生学会奨励賞受賞
【資格】

  • 産業医
  • 日本産業衛生学会専門医・指導医
  • 医学博士
  • 労働衛生コンサルタント
  • 社会医学系指導医
  • Master of Public Health (MPH)
  • 経営管理修士(MBA)


【所属学会】

  • 日本産業衛生学会(前産業衛生学雑誌編集委員)
  • 日本疫学会
  • International Commission on Occupational Health
  • 日本内科学会 他
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