中小企業における職場環境改善の進め方

 労働安全衛生法改正により従業員数50人未満の小規模事業場においてもストレスチェックの実施が義務付けられ、令和10年4月1日より施行されることになりました。

 職場環境改善は、ストレスチェック制度において活用される、職場のメンタルヘルスの一次予防の有力な方策ですが、大規模事業場であっても試行錯誤しながら取り組んでいる状況であり、各種資源に乏しい小規模事業場においてはさらに取り組んでいくことが困難であることが予想されます。

 令和8年2月に公開された労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル(※)では、職場環境改善の計画立案時の際の参考として、事業場内外の良好事例の活用が勧められています。職場環境改善を上手に実施している事業場の事例は、ストレスチェック制度の職場環境改善を浸透していく上での有用な資料となることが期待されます。
 ※小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル

このような中、令和7年度より、労災疾病臨床研究事業費補助金「ストレスチェックの集団分析結果を活用した職場環境改善に関する調査研究」(研究代表者:堤 明純)において、主に中小規模事業場を対象にインタビュー調査を行い、職場環境改善に関する好事例を収集しております。収集した好事例集は、北里大学医学部公衆衛生学のホームページ(※)上で、随時公開しております。
 ※参考資料:北里大学医学部公衆衛生学
  「ストレスチェック制度における集団分析および職場環境改善の好事例集」 

 今回は同事例集の中から、著者が収集した3つの事業場の好事例を中心に、小規模事業場を含めた中小企業における職場環境改善の進め方の工夫につき紹介したいと思います。

目次

プロジェクト型組織における職場環境改善①

 プロジェクト型の組織であるA社(プログラム開発業、従業員数約50名)では、在宅勤務および客先常駐による分散勤務環境の中で、社員の孤立やストレス状態を把握しにくいこと、また、半年から1年程度のプロジェクト単位で業務が進むため、職場単位での集団分析や職場環境改善が難しいという構造的課題を抱えていました。

 こうした状況を踏まえ、営業部門による定期訪問や管理部門の若手社員よる社員全員面談を通じて、個々の状況を把握することに努めました。個々の細かい状況までを把握できるようになってからは、プロジェクトと社員の適性を踏まえたマッチング調整、問題が生じた場合の再アサインなどが実施できるようになり、プロジェクトとのミスマッチによる問題の減少や、問題が生じた場合に早期に管理部門が介入できるようになったとのことです。

 ※参考事例
  「プロジェクト型事業における分散勤務環境でのストレスチェック活用と職場環境改善の取り組み」
  ストレスチェックの集団分析結果を活用した職場環境改善に関する調査研究

プロジェクト型組織における職場環境改善②

 プロジェクト型組織であるB社(デジタル製作、社員数38名)もA社と同様の課題に加え、多様なルーツ(国籍等)を持つ従業員が多く、仕事の進め方や価値観について共通の理解が十分に形成されていないという課題も抱えていました。 

 こうした状況を踏まえ、会社として改善の方向性を整理、多様な背景を持つ社員が同じ土台に立ち、共通の理解を持って働くことが重要であると考え、「共通認識の形成」を最初の目標として位置づけました。そして、産業看護職によるランチタイムを活用した全員参加のセミナー(セルフケア教育、計3回)を開催しました。同時に、管理職向けに、部下ケアに関する悩みや経験を共有する対話の場が設けられ、産業看護職がファシリテーターとして参加し、管理職同士が抱える課題や対応方法について率直に意見交換を行うことができました。

 さらに、職場内の対話を活性化するために「対話の可視化」にも取り組みました。会議の議事録を社員に公開し、チャットツールを活用して誰でも質問や相談ができる仕組みを整備しました。これにより、疑問や不安を感じた際に気軽に声をかけられる環境づくりが進められました。

 こうした取り組みを進めた結果、社員同士のコミュニケーションの促進や、社員が限界に達する前に上司へ相談するケースが増え、上司から人事部門への早期連携も増加するようになったとのことです。

 ※参考事例
  「共通認識形成を起点に在宅勤務下の孤立予防と早期対応体制を整備した小規模情報サービス企業の取組」
  ストレスチェックの集団分析結果を活用した職場環境改善に関する調査研究

飲食チェーン企業における職場環境改善

 全国で多店舗展開するC社(飲食業、従業員約42,000名)の店舗の多くは、従業員50名未満の小規模事業場で構成されています。店舗ごとの労務管理水準にばらつきがあり、アルバイトの定着不足や慢性的な人員不足が現場運営の大きな課題となっていました。

 会社として、まずは労務管理の基本を見直すことが必要であると判断し、各種施策を段階的に進めました。具体的には、労働時間管理の見直し、アルバイト教育の体系化、現場からの報告ルートの整備、ハラスメント対応体制の強化などです。また、ストレスチェックの集団分析結果を部門の課題設定や目標管理に組み込むことで、制度と職場改善を連動させる取り組みを進めました。

 取り組みを行った結果、アルバイトの定着率が向上し、人員不足の状況が緩和されるようになりました。人材が安定して配置されることで、店舗管理者にも一定の余裕が生まれ、職場環境改善に取り組む時間を確保できるようになったとのことです。また、労働時間管理や休日確保が徹底されたことで、店舗の働き方にも変化が生まれ、職場の雰囲気が以前より良くなったと感じる声もあり、働きやすい環境づくりが進んだと認識されているようです。

 ※参考事例
  「労務管理の徹底がアルバイトの定着等につながり、職場の環境に好影響を与えていると思われる事例」
  ストレスチェックの集団分析結果を活用した職場環境改善に関する調査研究

 いずれも集団分析結果から職場環境改善を進めたという訳ではありませんが(そもそも集団分析結果の活用が難しい組織でもあり)、それぞれに担当者が組織の課題を認識し、課題の解決に向けて工夫しながら職場環境改善を行っていったことがうかがえます。
 より詳細な情報や、他の事例も知りたい方はぜひ好事例集のホームページにアクセスください。

この記事を書いた人

今井 鉄平 氏
OHサポート株式会社 代表 産業医

2022年、日本産業衛生学会奨励賞受賞
【資格】

  • 産業医
  • 日本産業衛生学会専門医・指導医
  • 医学博士
  • 労働衛生コンサルタント
  • 社会医学系指導医
  • Master of Public Health (MPH)
  • 経営管理修士(MBA)


【所属学会】

  • 日本産業衛生学会(前産業衛生学雑誌編集委員)
  • 日本疫学会
  • International Commission on Occupational Health
  • 日本内科学会 他
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