あなたの会社はできていますか?職場の腰痛対策

腰に手を当てる男性のイメージ

あらゆる職場で見られる疾病「腰痛」。プレゼンティーズムやアブセンティーズムに影響を与える腰痛について、職場での対策をOHサポート株式会社 代表 産業医の今井 鉄平先生にご寄稿いただきました。

プレゼンティーズム(プレゼンティズム)
 …従業員が出勤してはいるが、疾病やメンタル面での問題が作用し、生産性や業務遂行力などのパフォーマンスが上がらない状態のこと。
 例)肩こり、腰痛、二日酔いなど

アブセンティーズム(アブセンティズム)
 …体調不良や疾病などにより、遅刻・早退・欠勤・休職などの勤務ができない状態のこと。
 例)通院のための早退、労働災害による休職など

目次

職場における腰痛

職場における腰痛は、特定の業種のみならず多くの業種及び作業においてみられ、休業4日以上の業務上疾病として2021年には5,847件の発生を認めており、新型コロナウイルス罹患を除くと業務上疾病として最も多いものとなっております。さらに、腰痛は労働生産性の低下と関連する重大な要因となることも示唆されており、各職場における腰痛予防対策は極めて重要と言えます。

腰痛の原因は?

腰痛の発生要因は動作要因、環境要因、個人的要因、心理・社会的要因に分類されます。これらのうち、単独の要因だけが腰痛の発生に関与することは稀で、いくつかの要因が複合的に関与しているとされています。

  • 動作要因
    重量物の取り扱い、人力による人の抱上げ作業、長時間の静的作業姿勢(拘束姿勢)、不自然な姿勢、急激又は不用意な動作
  • 環境要因
    振動、温度等、床面の状態、照明、作業空間・設備の配置、勤務条件等
  • 個人的要因
    年齢及び性、体格、既往症及び基礎疾患
  • 心理・社会的要因
    仕事への満足感や働きがいが得にくい、上司や同僚からの支援不足、職場での対人トラブルなど

腰痛の対策方法は?

腰痛の発生要因は複数存在することから、単独の予防対策だけでは、また、個別的に各予防対策を行うのでは、腰痛の発生リスクを効果的に軽減するのは難しいとされています。このため、事業者が中心となり、職場で総合的な腰痛予防対策を講じていくことが重要と言えます。2013年に厚生労働省から公表された「職場における腰痛予防対策指針」では、このような総合的な腰痛予防対策のために事業者や労働者が取り組むべきことがまとめられています。具体的な予防対策は「作業管理」「作業環境管理」「健康管理」の3つに分類されます。以下、分類別に取り組みのポイントを示します。

【参考】
作業管理/作業環境管理/健康管理など労働衛生については、こちらのウェビナーもご覧ください。

作業管理

男性が荷物を運んでいる様子

作業管理面からの腰痛予防対策は以下となります。

  1. 自動化、省力化
  2. 作業姿勢、動作
  3. 作業の実施体制
  4. 作業標準
  5. 休憩・作業量、作業の組合せ等
  6. 靴・服装等

自動化、省力化

重量物取り扱い作業等の腰部に著しい負担のかかる作業については、作業の全部又は一部を自動化することが望まれます。それが難しい場合は、運搬物の軽量化、台車等の適切な補助機器や道具を導入するなどの省力化を行うことが求められます。

作業姿勢、動作

作業者が自然な姿勢で作業対象に正面を向いて作業できるように、作業台等を適切な高さと位置に設置するとともに、十分な作業空間を設置することなどがあげられます。また、不自然な姿勢を取らざるを得ない場合も、前屈の角度やひねりの程度を小さくするとともに、不自然な姿勢を取る頻度と時間を少なくする工夫が求められます。

作業の実施体制

作業者の年齢・性別・体格・体力なども考慮して、作業密度・作業強度・作業量等が個々の作業者ごとに過大になりすぎないよう配慮することが重要です。

作業標準

主な作業動作・作業姿勢・作業手順・作業時間等を盛り込んだ作業標準の策定も、腰痛防止に必要な対策の一つです。その際、必要に応じてイラストや写真等も活用して、具体的な内容にすることが大事です。

休憩・作業量、作業の組合せ等

各作業間に適切な長さと頻度の休憩を取ることで、腰部の緊張を取り除くことが大事です。また、不自然な姿勢をとる時間が多い作業や、姿勢の拘束や同一作業の反復が多い作業では、他の負担が少ない作業と組み合わせるなどして、負担がかかる一連続作業時間をなるべく短くすることも求められます。

靴・服装等

転倒等の事故を防ぐために、作業用の靴は滑りにくいものを使うこと、また、作業服は、適切な姿勢や動作を妨げることのないように伸縮性のあるものを使うようにすることが大事です。

作業環境管理

ヘルメットを抱えた男性のイメージ

作業環境管理面からの腰痛予防対策は以下となります。

  1. 温度
  2. 証明
  3. 作業床面
  4. 作業空間や設備、荷の配置等

温度

気温が低すぎると腰痛の悪化、腰痛の発生をさせやすくするため、寒冷時の屋内作業場では適切な温度環境を保つこと、冬季の屋外作業では、保温のための衣服を着用させるとともに、適宜、暖が取れるように休憩室等に暖房設備を設けることが望まれます。

証明

照度不足で足もとや周囲の安全が確認できないと、腰痛の原因となる転倒や階段の踏み外し等を招く危険があります。このため、作業場所・通路・階段等で、適切な照度を保つことも重要です。

作業床面

転倒・つまずき・滑り等のリスク低減のため、作業床面はできるだけ凹凸・段差が少なく、滑りにくいものとすることが望まれます。

作業空間や設備、荷の配置等

不自然な作業姿勢・動作を避けるため、十分な作業空間を確保することが大事です。作業場そのものが整理整頓されておらず、雑然と物が置かれている状況だと、作業・移動の妨げとなるため、作業開始前に十分な作業空間を確保しておくことが求められます。また、作業場を日頃から整理整頓しておくことで、転倒防止にもつながります。

健康管理

女性がノートパソコンの前でストレッチをしている様子

健康管理面からの腰痛予防対策は以下となります。

  1. 腰痛予防体操
  2. 職場復帰時の措置
  3. 心理社会的要因への対応

腰痛予防体操

職場で腰痛予防体操を実施し、腰部を中心とした腹筋、背筋、殿筋等の筋肉の柔軟性を確保し、疲労回復を図ることが重要です。腰痛予防としてはストレッチングを主体としたものが望ましく、作業開始前・作業中・作業終了後などが実施のタイミングとなります。

職場復帰時の措置

腰痛は再発する可能性が高い疾病です。腰痛による休業者の職場復帰の際は、重量物取り扱い等の腰部に負担のかかる業務の免除など、腰痛発生に関与する要因を排除・低減し、休業者が復帰時に抱く不安を十分に解消してあげることが大事です。また、休職に至らずとも、腰痛の訴えや既往症を把握した場合には、必要に応じて作業方法の改善・作業時間の短縮・作業環境の整備等の配慮を行うことが求められます。

心理社会的要因への対応

上司や同僚の支援、腰痛で休業することを受け入れる環境づくり、腰痛による休業からの職場復帰支援、相談窓口をつくる等の組織的な取り組みが重要です。

この記事を書いた人

今井 鉄平 氏
OHサポート株式会社 代表 産業医

2022年、日本産業衛生学会奨励賞受賞
【資格】

  • 産業医
  • 日本産業衛生学会専門医・指導医
  • 医学博士
  • 労働衛生コンサルタント
  • 社会医学系指導医
  • Master of Public Health (MPH)
  • 経営管理修士(MBA)


【所属学会】

  • 日本産業衛生学会(前産業衛生学雑誌編集委員)
  • 日本疫学会
  • International Commission on Occupational Health
  • 日本内科学会
  • 日本プライマリ・ケア連合学会 他

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